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「入試問題投稿問題(上)~カンニングごときで騒ぎすぎでは?」(2011/03/05 23:59)の続きです。



1.京都大などの入試問題が試験時間中にインターネット上の掲示板に投稿された問題で、京都大は3月3日午前、京都府警に被害届を提出しています。早大では2月12日にあった英語の試験中、掲示板のヤフー知恵袋に「aicezuki」のハンドルネームで問題文が投稿され、警視庁は3月4日、早稲田大から提出された被害届を受理し、同11日の立教大の英語でも同様の投稿があり、警視庁は立大からの被害届を既に受理しています。これら大学側は、被害届を出している以上、カンニングは犯罪に当たるという意図であることが明らかです。

しかし、他方で、今回のカンニングは古典的な手法(股の下に隠して不正行為を行う)にすぎず、試験監督の不手際があったと言わざるを得なかった実態が明らかになりました。そのため、今回のカンニングを業務妨害と評価してよいのか、疑問も生じます。

 「府警内部でも京大の対応に違和感を覚えるという声が出ている。監督の不備の可能性に目をつぶり、内部調査もしないまま警察に丸投げした形になったためだ。
 事件発覚から6日目の3日、初めて記者会見した松本紘学長は「監督はちゃんとやっている」と時に声を荒らげて強調。「(京大の監督の)範囲の外で起こるようなネット犯罪であれば、対策を取らなければいけない」とまで述べた。
 ところが、予備校生は府警の調べに、試験会場の自席に着き「机の下で携帯電話を操作した」と説明。会場の隅の席は試験監督から死角になるので何回もやったとも話し、一夜にして「監督は万全」との大学側主張に疑問符がついた。
 「試験監督の不手際を棚に上げ、すぐに警察に持ってくるのはどうか。自ら検証もせず、批判や追及を受けないよう逃げているだけのように思える」。府警幹部の一人はこうつぶやいた。【広瀬登、太田裕之、林哲平】」(毎日新聞 2011年3月5日 大阪朝刊


では、カンニングは犯罪になるのでしょうか? 幾つかの記事を紹介しておきます。


(1) 毎日新聞 2011年3月4日 東京朝刊

質問なるほドリ:カンニングって罪になるの?=回答・山本太一
 <NEWS NAVIGATOR>

 ◆カンニングって罪になるの?


 ◇行為を罰する法はない 今回は「入試業務を妨害」容疑

 なるほドリ 京都大などの入試問題投稿事件で、男子予備校生が逮捕されたけど、カンニングって罪になるの?

 記者 試験が失格になる例はありますが、逮捕は極めてまれです。カンニングそのものを罰する法律はありません。今回の容疑は偽計業務妨害です。

 Q 聞き慣れない言葉だけど、どんな罪なの?

 A 業務妨害罪には偽計業務妨害(刑法233条)と威力業務妨害(同234条)があります。偽計業務妨害は根拠のない風説を流したり、偽計を用いて、人や会社の普段の仕事などを妨害する行為です。

 Q 偽計ってどういう意味?

 A 策略を講じて相手をだますという意味ですが、法律上は厳密でなく悪意を伴った行為という程度に解釈しています。威力は脅迫など直接的、有形的な方法で、偽計は間接的、無形的な方法で妨害します。偽計は会社に嫌がらせ電話を多数回かけて逮捕されるケースが多いです。罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

 Q 今回の事件ではどんな妨害をしたということになるの?

 A 京大では2月25日(数学)、26日(英語)の試験時間中、ネットの「ヤフー知恵袋」に計8回、問題への解答を求める投稿があり、実際に回答がありました。事件が発覚した試験終了直後から、職員が投稿した受験生を特定するためにネット上の回答と答案用紙の解答を照合したり、不審な人物がいなかったかなどを確認しています。本来は不必要な業務をさせ、公明正大であるべき入試そのものを妨害したとされています。また、京大は今月10日に合格発表予定で影響は大きかったのです。

 Q 他の大学3校に対しても同じ容疑が掛けられるの?

 A これからの捜査ですが、早稲田、立教、同志社大でも、京大と同じように投稿された回答と実際の解答との照合作業や不審者の洗い出しをしています。警察は妨害の程度が大きい京大を優先して立件しました。

 Q 今回のような事件で逮捕するのは厳しいとも感じるけど。

 A 一部の専門家からは、大学の内部調査で投稿者を特定して合格を取り消せば十分ではないかという意見も出ています。既に大きな騒ぎとなって社会的制裁を受けたという見方もあります。警察も入試の不正行為にこの容疑を適用するのは初めてで、慎重に捜査しています。(社会部)

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 ◇最近の主な偽計業務妨害事件◇

09年 3月 日本テレビ系列の報道番組で岐阜県が裏金作りをしているなどと虚偽の証言をしたとして、岐阜県警が元会社役員を逮捕

09年 9月 元女優の酒井法子さんを「保釈しなければ警察署が火の海になる」とテレビ局にメールを送った無職の男を警視庁が逮捕

10年12月 国際テロに関する資料がネットに流出した事件で警視庁の業務を妨害したとして捜査

11年2月 ネット掲示板に「新大阪駅で無差別通り魔事件を起こす」と書き込んだ高校3年の少年を大阪府警が逮捕

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 質問をお寄せください。〒100-8051毎日新聞「質問なるほドリ」係 naruhodori@mainichi.co.jp

毎日新聞 2011年3月4日 東京朝刊」



(2) 毎日新聞 2011年3月4日 東京朝刊

入試問題ネット投稿:予備校生逮捕 逮捕の是非巡って両論 不起訴の可能性も

 今回の事件は「カンニング」行為を偽計業務妨害容疑で逮捕する初めてのケースとなった。逮捕の是非を巡っては、行為の悪質性から「必要だ」とする声がある一方、「保護の意味からやむを得なかった」という意見も聞かれた。

 ネット犯罪に詳しい園田寿・甲南大法科大学院教授(情報犯罪)は「隣席の答案をのぞき見るカンニング行為とは性質が違う。公平に学力を競う試験制度の根幹を揺るがすネット犯罪と見るべきだ」と悪質性を指摘。「投稿の手口など、京都府警は逮捕して事情を聴く必要があったのだろう」と述べた。

 ネット問題が専門の岡村久道弁護士(大阪弁護士会)は「少年は行方が分からなくなり、家族から捜索願も出ている。自殺という最悪の展開を想定すれば、逮捕はやむを得なかったのでは」と語った。

 こうした経緯から、起訴の可能性については疑問の声も出ている。岡村弁護士は「入試が混乱するのを少年がどこまで予測していたかが問われる」とした上で、「合格取り消しなど社会的制裁を受け、身にしみて懲りたと判断されれば、不起訴になる可能性もある」と見通しを語った。

 一方、一橋大の葛野尋之教授(刑事法)は共同通信の取材に対し、「(偽計業務妨害罪に)該当するとは思うが、騒ぎが大きくなったために逮捕したとしたら問題。社会が納得するようなストーリーで供述調書が作られる可能性がある」と懸念する。【村松洋】

毎日新聞 2011年3月4日 東京朝刊」



(3) 東京新聞平成23年3月4日付超過【核心】

刑事罰適用、賛否分かれる

▼カンニング

 多くの法曹関係者は、予備校生の行為に偽計業務妨害罪を適用することは可能との見方で一致するが、刑事罰を適用すべきかどうかをめぐっては意見が分かれる。

 刑法は偽計業務妨害を、人をだましたり、策略を講じたりする不正行為で業務を妨害する罪と規定しているが、大学入試での「カンニング」が刑事事件として摘発された例は、過去にもないとみられる。

 ある検察幹部は「隣の席の答案を見るようなカンニングは犯罪に当たらない」と指摘。予備校生の行為については問題を流出させた点に注目し、「抽象的な意味での公正な入試の実施だけではなく、流出の発覚が合格発表前の採点作業に支障を与えたのは明らかだ」として、偽計業務妨害罪が成立するとみる。

 その場合、カンニングに刑事処分で対処する必要があるのか。園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法)は「大学の情報管理の隙を突いた犯罪。今後の入試試験の運営に大きな影響を及ぼすもので、起訴に相当する」と厳しい。

 一方、検察幹部は「予備校生には今後、合格取り消しなどの社会的制裁が考えられ、刑事罰まで科す必要はない」と話す。」



(4) NHKニュース(3月3日 19時38分)

“逮捕はやむをえない”
3月3日 19時38分

 19歳の男子予備校生が偽計業務妨害の疑いで逮捕されたことについて、元検事でインターネットを使った犯罪に詳しい落合洋司弁護士は「今回の事件は大学側の入試という業務を妨害したうえに、本来の業務ではない調査を行わせていることから、偽計業務妨害の罪にあたる」と指摘しました。

 また、少年を逮捕したことについては、「単純なカンニングと違って、インターネットを使って多くの人を巻き込んでおり、社会に与えた影響は大きい。投稿した手口や共犯者がいるかどうかなどの真相を明らかにするためには、逮捕はやむをえない」と述べました。

 さらに、今後の見通しについては、「少年なので、家庭裁判所で審判を受けることになる。重大な事件の場合、起訴されて通常の刑事裁判を受けることになるが、今回のケースはそれほど重大とまでは言えないのではないか」と話していました。」




2.カンニング行為については、業務妨害罪に当たるのかどうかが問題となっています。

(信用毀損及び業務妨害)
刑法第二百三十三条
 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(威力業務妨害)
刑法第二百三十四条
 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。


偽計業務妨害罪が成立ための要件は、<1>偽計を使用して、<2>その業務を、<3>妨害することが必要です。

業務とは、職業その他社会生活上の地位に基づき継続して行う事務または事業をいいます(大判大正10・10・24)。大学入試は、大学で学ぶ者を選抜する制度ですので、「業務」に当たることには異論がないでしょう。



(1) 多少検討を要するのは、<1>の要件です。

3 偽計の使用

1 意義
 偽計を用いるとは、人を欺罔し、または人の不知、錯誤を利用することをいう。詐欺罪における「人を欺く」より広い。直接被害者に向けられていることは必要ない。人の意思に直接働きかけるのではなく、物に向けて非公然になされる行為、たとえば、有線放送会社が放送送信に使用している電線を密かに切断して、顧客への送信を不能にすること(大阪高判昭和49・2・14判例時報752号111頁)、電話の応答信号の送出を妨害するマジックホンとうい機械を取り付けて、電話料金の課金装置の作動を不能にすること(最決昭和59・4・27刑集35巻6号2584頁)も偽計を用いたものとされている。」(佐久間ほか「刑法基本講義 総論・各論」(有斐閣、2009年)329頁)


カンニング[cunning]とは、「試験のとき、他人の答案や隠し持った本・メモなどを見るなどの不正行為をすること 」を言います(三省堂「大辞林 第二版」より)。この事件での予備校生は、インタ-ネットに問題を投稿し、不特定多数の者による回答を見たという行為をしたのですから、いわゆるカンニングに当たる行為です。

この予備校生が行ったカンニング行為は、インターネットという公の場所への投稿によるカンニングであったことから、「人の不知」を利用したとは言えない面はあるため、「偽計」に当たるのか若干疑問はあろます。しかし、少なくとも試験会場においては、試験監督に見つからないように行ったものですから、「人の不知、錯誤を利用」して行ったと判断できます。



(2) 問題になるのは、<3>の要件です。すなわち、カンニング行為が業務を「妨害」したと言えるのかです。この点については2つほど文献を引用しておきます。

5 妨害

 業務妨害罪の成立には、業務を妨害したことが必要である(未遂犯を処罰する規定はない)。判例は、危険犯であるとする(大判昭和11・5・7刑集15巻573頁、最判昭和28・1・30刑集7巻1号128頁)。しかし、名誉毀損罪や信用毀損罪における毀損と比べて、業務の妨害はより具体的に認定することができるから、侵害犯であるとする見解が有力である。業務に支障を生じさせることが必要である。

発展学習:外形的支障

 業務を妨害したというためには、業務に外形的混乱・支障を生じさせることが必要であり、替え玉受験やカンニングのように、個別的な業務における判断の誤りを生じさせ、業務内容を実質的に不適切なものにしたにすぎない場合は除外されるとする見解が有力である。このような見解によれば、3(→329頁)に挙げたマジックホンの事例は、料金の計算を誤らせたものにすぎず、業務妨害にあたらないとの理解が可能であろうが、最高裁(前掲最決昭和59・4・27)は、「課金装置の作動を不能にした」としており、この点に着目すれば、外形的な支障が生じたとおいうことも不可能ではないであろう。」(佐久間ほか「刑法基本講義 総論・各論」(有斐閣、2009年)330頁)


4 妨害の意義

 「妨害した」の意義について、判例は信用毀損罪との均衡から、妨害の危険を生ずれば足りるとして本罪を危険犯とする(大判昭和11・5・7刑集15巻573頁、同旨、団藤520頁、大塚159頁・160頁)。しかし、文言どおり侵害犯と解すべきであろう(平野188頁、大谷144頁、曽根80頁、中森70頁)。したがって、業務遂行に多少とも外形的混乱・支障を生じたことを必要とし、たとえば替え玉受験やカンニングのように、単に個別的な業務における判断の誤りを生ぜしめたにすぎない場合は除外される。業務の外形的妨害があればよく、その具体的な被害額等を明らかにする必要はない。」(西田典之「刑法各論(第4版)」(弘文堂、平成19年)121頁)


これらの文献にあるように、業務を妨害したというためには、業務に外形的混乱・支障を生じさせることが必要であるとして、単に個別的な業務における判断の誤りを生ぜしめたにすぎない「カンニング」行為は、「妨害」に当たらないとするのが、一般的と思われます。

確かに、偽計業務妨害罪について、妨害の危険を生ずれば足りるとして危険犯とする考えもあります。しかし、「危険を生ずれば足りる」という点を強調すればあらゆる行為が「妨害」に該当してしまうため、このように「危険性」を拡大して過度に処罰を広げることは、「謙抑性の原則」から許されません。

裁判例としても、承諾を得た他人の名前で私立大学の入試答案を作成する行為(東京高判平成5・4・5判例タイムズ828号275頁。最決平成6・11・29刑集48巻7号453頁参照)(いわゆる替え玉入試)は、入学選抜試験の答案は「事実証明に関する文書に当たる」として私文書偽造罪(159条1項)に該当するとしてはいるものの、偽計業務妨害罪で起訴さえしてないのです。

試験におけるカンニングは、昔からたびたびなされる行為ですから、試験ではカンニングがあることは当然に予測しているものです。ですから、、試験を実施する側はカンニング防止対策(試験監督による監視など)を行うことも試験業務の内容となっており、他方で、カンニングをした受験生の対応は、最高でも合格取り消しのみでそれ以上の制裁をしないのが一般的です。また、大学での学部の定期試験においては、建前上は、停学、受験していた試験は無効となり、それ以降の試験を受けることができない(受験資格喪失)にするのが一般的です。

ですから、カンニングをした者がいたとしても、それは通常の(予測された)業務の範囲内であり、カンニングが業務妨害にならないのです。単に個別的な業務における判断の誤りを生ぜしめたにすぎないからという説明も可能でしょうが、どう説明しようとも、法律上、「カンニング」行為は、「(業務)妨害」に当たらないとするのが、一般的なのです。

もっとも、大学の定期試験・入学試験での実情は、カンニングに対する対応は、厳重注意かあるいは「見逃し」が一般的でしょう。それは、大学では、学生や受験生は「お客様」だからです。このように、大学側が、カンニング防止対策を怠っている場合は、大学側が通常行うべき業務を身勝手に怠っただけなのですから、その結果、カンニングが横行したとしても、それは大学側の自己責任であって、カンニングを行った者が処罰されるのは不合理です。やはり通常の業務を前提として、カンニングの妨害該当性を判断するべきです。



(3) このように、学説・裁判例はもちろん、現実の運用としてもカンニング行為は(不合格などの内部的な制裁はあるとしても)法律上は不可罰とされてきました。

 イ:ところが、今回、カンニングは偽計業務妨害罪に該当するという記事が並んでいるのです。
 

「多くの法曹関係者は、予備校生の行為に偽計業務妨害罪を適用することは可能との見方で一致するが、刑事罰を適用すべきかどうかをめぐっては意見が分かれる。(中略)
 ある検察幹部は「隣の席の答案を見るようなカンニングは犯罪に当たらない」と指摘。予備校生の行為については問題を流出させた点に注目し、「抽象的な意味での公正な入試の実施だけではなく、流出の発覚が合格発表前の採点作業に支障を与えたのは明らかだ」として、偽計業務妨害罪が成立するとみる。」(東京新聞)

 「19歳の男子予備校生が偽計業務妨害の疑いで逮捕されたことについて、元検事でインターネットを使った犯罪に詳しい落合洋司弁護士は「今回の事件は大学側の入試という業務を妨害したうえに、本来の業務ではない調査を行わせていることから、偽計業務妨害の罪にあたる」と指摘しました。」(NHK)


すでに述べたようにカンニングについては、カンニング防止策を行うのが通常の業務であり、試験会場はもちろん、試験後も発覚すればそれへの対応をするのが通常の業務の範囲内です。ですから、「流出の発覚が合格発表前の採点作業に支障を与えた」というのは、通常の業務にすぎない行為を「妨害」と評価するものであって、妥当ではありません。

検察幹部は「予備校生の行為については問題を流出させた点に注目し、『抽象的な意味での公正な入試の実施』」を妨害した」とも述べているようです。しかし、これは過度に妨害への危険性して処罰するものであって、妥当ではありません。

また、ある弁護士は、「本来の業務ではない調査を行わせていることから、偽計業務『妨害』の罪にあたる」としています。しかし、すでに述べたようにカンニング防止策を行うことも通常の業務であるのですから、それを「本来の業務ではない調査」と間違った事実認識で判断している以上、妥当ではありません。

この検察幹部や落合洋司弁護士は、一体、学説・裁判例はもちろん、現実の運用をきちんと調べた上で発言しているのでしょうか。学説・裁判例はもちろん、現実の運用とも一致していないのに、過度の処罰を肯定することは極めて疑問です。


 ロ:処罰に値しないのが従来の一般的な評価である以上、起訴はあり得ないのが論理的な帰結です。ところが、ある学者は処罰を当然視するのです。
 

「ネット犯罪に詳しい園田寿・甲南大法科大学院教授(情報犯罪)は「隣席の答案をのぞき見るカンニング行為とは性質が違う。公平に学力を競う試験制度の根幹を揺るがすネット犯罪と見るべきだ」と悪質性を指摘。「投稿の手口など、京都府警は逮捕して事情を聴く必要があったのだろう」と述べた。
 ネット問題が専門の岡村久道弁護士(大阪弁護士会)は「少年は行方が分からなくなり、家族から捜索願も出ている。自殺という最悪の展開を想定すれば、逮捕はやむを得なかったのでは」と語った。
 こうした経緯から、起訴の可能性については疑問の声も出ている。岡村弁護士は「入試が混乱するのを少年がどこまで予測していたかが問われる」とした上で、「合格取り消しなど社会的制裁を受け、身にしみて懲りたと判断されれば、不起訴になる可能性もある」と見通しを語った。」(毎日新聞)

 「その場合、カンニングに刑事処分で対処する必要があるのか。園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法)は「大学の情報管理の隙を突いた犯罪。今後の入試試験の運営に大きな影響を及ぼすもので、起訴に相当する」と厳しい。
 一方、検察幹部は「予備校生には今後、合格取り消しなどの社会的制裁が考えられ、刑事罰まで科す必要はない」と話す。」(東京新聞)

 「今後の見通しについては、「少年なので、家庭裁判所で審判を受けることになる。重大な事件の場合、起訴されて通常の刑事裁判を受けることになるが、今回のケースはそれほど重大とまでは言えないのではないか」と話していました。」(NHK)

 「府警内部でも京大の対応に違和感を覚えるという声が出ている。監督の不備の可能性に目をつぶり、内部調査もしないまま警察に丸投げした形になったためだ。
 事件発覚から6日目の3日、初めて記者会見した松本紘学長は「監督はちゃんとやっている」と時に声を荒らげて強調。「(京大の監督の)範囲の外で起こるようなネット犯罪であれば、対策を取らなければいけない」とまで述べた。
 ところが、予備校生は府警の調べに、試験会場の自席に着き「机の下で携帯電話を操作した」と説明。会場の隅の席は試験監督から死角になるので何回もやったとも話し、一夜にして「監督は万全」との大学側主張に疑問符がついた。
 「試験監督の不手際を棚に上げ、すぐに警察に持ってくるのはどうか。自ら検証もせず、批判や追及を受けないよう逃げているだけのように思える」。府警幹部の一人はこうつぶやいた。」(毎日新聞 2011年3月5日 大阪朝刊)



こうして引用すると、現実の運用を知っている捜査機関や弁護士は、「予備校生には今後、合格取り消しなどの社会的制裁が考えられ、刑事罰まで科す必要はない」「試験監督の不手際を棚に上げ、すぐに警察に持ってくるのはどうか。自ら検証もせず、批判や追及を受けないよう逃げているだけ」「今回のケースはそれほど重大とまでは言えない」と判断して、不起訴処分となるとの見通しを述べています。

ところが、園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法)だけは、「大学の情報管理の隙を突いた犯罪。今後の入試試験の運営に大きな影響を及ぼすもので、起訴に相当する」と指摘しています。

しかし、今回の事件では、インターネットを利用した点で目新しいとはいえ、「受験した座席は試験監督から見えにくい場所で、机の下に隠し持っていた携帯電話を操作して問題を投稿した」のですから、<1>試験監督の死角を狙って行うという極めて古典的なカンニング方法であり、<2>股下・机の下にカンニング-ペーパー(カンニング用に隠し持つ紙片)を隠して答えを写したのと殆ど変わりがなく、これまた、古典的なカンニング方法にすぎないのです。

それなのに、園田教授は、「大学の情報管理の隙を突いた犯罪」などと大層な言い回しをしてしまうのです。dせうが、それは現実離れしたものであって、妥当ではありません。古典的なカンニング方法を摘発できないほどのお粗末な試験監督を行っている大学側こそが問題なのです。したがって、園田教授の見解は妥当ではありません。園田教授はもっと現実を知るべきでしょう。




3.今回の問題は、たかがカンニングであり、しかも古典的なカンニングの方法にすぎません。

(1) それなのに、全国紙(朝日、読売、毎日)は、重大犯罪のごとく大騒ぎしてしまいました。世論もそうした報道に影響され、熱狂させられた面があります。特に、朝日新聞は、連日大きく報道して国家の一大事のごとく散々煽って大問題にしておきながら、今になって平然と次のように言い放つのです。

 「予備校生逮捕―若者の失敗、どうみる 

 京都大などの入試問題が試験中にネットに投稿された問題で、仙台市の男子予備校生が逮捕された。偽計業務妨害容疑である。
 カンニングは、一緒に勉強してきた多くの仲間を裏切る行いだ。社会的影響も大きかった。ただ、日本ではカンニング行為そのものを罰する法律もない。まだ19歳。処分は慎重に判断すべきだろう
 予備校生は「携帯を股の間に隠して操作した」と話しているという。捕まってみれば、器用だが幼い手口にも思える。世間の大騒動との落差に、ネット社会の今が浮かびあがるようだ。(中略)
 大学が最初にこの問題をつかんだ段階で、「不心得者よ、名乗り出よ」と呼びかけるような手立てはなかったか。今思うと、ネットの進化についてゆけない大人社会が、過剰に反応した面はないだろうか
 冷静に考えよう。ネットや携帯のなかった昔から、若者はときにとんでもない失敗をしでかすものだから。」(朝日新聞平成23年3月5日付「社説」)


カンニングは犯罪でもないのですから、大騒ぎする必要はなく、最初から「冷静に考え」ればよかったのです。「今思うと、ネットの進化についてゆけない大人社会が、過剰に反応した面はないだろうか」などという部分は、自己批判のつもりなのでしょうが、だったら、素直に「騒ぎすぎました。謝罪します。」と紙面に謝罪文を掲載するべきでしょう。

戦前からの問題となっていることですが、日本のマスコミは、やたらと感情的すぎて、冷静に判断できないのです。戦前は、それが世論を熱狂させ、第2次世界大戦の開戦へつながり、当時の政府も破滅の道と分かっていながら戦争へと突き進んでしまったのです。

特に、マスコミはインターネットが絡むとすぐに大騒ぎすることも、こうした感情的な報道を助長してしまっています。そのため、園田教授も含めて、いまだに日本の世論が感情的な報道に左右され、気がふれたように「処罰、処罰」と喚き立ててしまうのです。


(2) 他方、被害者を装っている大学側も、すぐに警察に頼ってしまいました。警察の介入を避けようとする気概ともいえる「大学の自治」の精神(憲法23条)は一体どこへ行ってしまったのでしょうか。

3 大学の自治

 学問研究の自主性の要請は、とくに大学について、「大学の自治」を認めることになる。大学の自治の観念は、ヨーロッパ中世以来の伝統に由来し、大学における研究教育の自由を十分に保障するために、大学の内部行政に関しては大学の自主的な決定に任せ、大学内の問題に外部勢力が干渉することを排除しようとするものである。それは、学問の自由の保障の中に当然のコロラリーとして含まれており、いわゆる「制度的保障」の一つと言うこともできる。

 大学の自治の内容としてとくに重要なものは、学長・教授その他の研究者の人事の自治と、施設・学生の管理の自由の二つである。ほかに、近時、予算管理の自治(財政自治権)をも自治の内容として重視する説が有力である。(中略)

 (二) 施設・学生の管理の自由 

 大学の施設および学生の管理もまた、大学の自主的判断に基づいてなされなければならない。この点に関してとくに問題となるのが、大学の自治と警察権との関係である。

 警察権が大学内部の問題に関与する場合はさまざまである。まず、犯罪捜査のために大学構内に立ち入る場合がある。大学といえども治外法権の場ではないので、正規の令状に基づく捜査を大学が拒否できないこと、むしろ必要と事情に応じて積極的に協力することは、言うまでもない。しかし、捜査に名をかりて警備公安活動が行われるおそれなしとしないので、捜査は大学関係者の立ち会いの下で行われるべきである。次に、大学構内で予想外の不法行為が発生し、そのためにやむを得ず大学が警察力の援助を求める場合がある。この場合には、原則として、警察力を学内に出勤させるかどうかの判断は大学側の責任ある決断によるべきである。したがって、警察が独自の判断に基づいて大学内へ入構することは、大学の自治の保障の趣旨に反するとみるべきであろう。」(芦部信喜「憲法(第4版)」(岩波書店、2007年)162頁以下)

 
明治憲法下において、学問の自由が直接的に国家権力によって侵害された歴史を踏まえて、あえて諸外国と異なり、学問の自由が憲法の明文で規定され、大学の自治が憲法の保障の下に認められているのです。それなのに、なぜ、入学試験という学問研究の場に参加する者を選択する行為を、自ら調査・検証することなく、安易に警察に委ねてしまったのでしょうか。

こうした安易に捜査機関に協力を求める行為は、京都大学に限ったことではありません。例えば、早稲田大学で中国の江沢民国家主席の講演会が開催された際に、警備に当たった警察の要請に応えて大学は、参加希望学生が氏名・学籍番号・住所・電話番号を記入した名簿の写しを学生に無断で警察に提出したため、学生が大学に対しプライバシー侵害を理由に損害賠償を求めた事件がありました(江沢民講演会参加者名簿提出事件)。最高裁は、本件の個人情報につき、「本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されなくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる」と述べ、本件においては学生の承認を求めることも容易であったと認定してプライバシー侵害を認めています(最判平成15・9・12民集57巻8号973頁)(芦部信喜「憲法(第4版)」(岩波書店、2007年)120頁)。こうした事件も、大学側が「大学の自治」を遵守していれば、およそ名簿の写しを学生に無断で警察に提出することはなかったはずなのです。

このように、安易に捜査機関に委ねてしまう今回の大学側の態度をみると、大学側が自ら大学の自治を学問の自由を放棄したに等しく、過去の歴史的経緯を踏まえて制定された日本国権憲法の趣旨が損なわれてしまったのです。東大ポポロ事件(最大判昭和38・5・22刑集17巻4号370頁)において、大学構内において行っていた警備公安活動に対して、大学側が行った抵抗は、昔を懐かしむだけの遠い過去の出来事になってしまったようです。

いまや大学にとっては、学生は単に金を出してくれる顧客にすぎず、邪魔と思えばあっさり警察に情報を提供し介入を認めるだけの存在であって、大学の意義は、就職活動の便宜や就職前の「遊び場」でしかないことを自ら認めてしまったように思えるのです。

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(2) 毎日新聞 2011年3月4日 東京朝刊

入試問題ネット投稿:予備校生逮捕 逮捕の是非巡って両論 不起訴の可能性も

 今回の事件は「カンニング」行為を偽計業務妨害容疑で逮捕する初めてのケースとなった。逮捕の是非を巡っては、行為の悪質性から「必要だ」とする声がある一方、「保護の意味からやむを得なかった」という意見も聞かれた。

 ネット犯罪に詳しい園田寿・甲南大法科大学院教授(情報犯罪)は「隣席の答案をのぞき見るカンニング行為とは性質が違う。公平に学力を競う試験制度の根幹を揺るがすネット犯罪と見るべきだ」と悪質性を指摘。「投稿の手口など、京都府警は逮捕して事情を聴く必要があったのだろう」と述べた。

 ネット問題が専門の岡村久道弁護士(大阪弁護士会)は「少年は行方が分からなくなり、家族から捜索願も出ている。自殺という最悪の展開を想定すれば、逮捕はやむを得なかったのでは」と語った。

 こうした経緯から、起訴の可能性については疑問の声も出ている。岡村弁護士は「入試が混乱するのを少年がどこまで予測していたかが問われる」とした上で、「合格取り消しなど社会的制裁を受け、身にしみて懲りたと判断されれば、不起訴になる可能性もある」と見通しを語った。

 一方、一橋大の葛野尋之教授(刑事法)は共同通信の取材に対し、「(偽計業務妨害罪に)該当するとは思うが、騒ぎが大きくなったために逮捕したとしたら問題。社会が納得するようなストーリーで供述調書が作られる可能性がある」と懸念する。【村松洋】

毎日新聞 2011年3月4日 東京朝刊」



(3) 東京新聞平成23年3月4日付超過【核心】

刑事罰適用、賛否分かれる

▼カンニング

 多くの法曹関係者は、予備校生の行為に偽計業務妨害罪を適用することは可能との見方で一致するが、刑事罰を適用すべきかどうかをめぐっては意見が分かれる。

 刑法は偽計業務妨害を、人をだましたり、策略を講じたりする不正行為で業務を妨害する罪と規定しているが、大学入試での「カンニング」が刑事事件として摘発された例は、過去にもないとみられる。

 ある検察幹部は「隣の席の答案を見るようなカンニングは犯罪に当たらない」と指摘。予備校生の行為については問題を流出させた点に注目し、「抽象的な意味での公正な入試の実施だけではなく、流出の発覚が合格発表前の採点作業に支障を与えたのは明らかだ」として、偽計業務妨害罪が成立するとみる。

 その場合、カンニングに刑事処分で対処する必要があるのか。園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法)は「大学の情報管理の隙を突いた犯罪。今後の入試試験の運営に大きな影響を及ぼすもので、起訴に相当する」と厳しい。

 一方、検察幹部は「予備校生には今後、合格取り消しなどの社会的制裁が考えられ、刑事罰まで科す必要はない」と話す。」



(4) NHKニュース(3月3日 19時38分)

“逮捕はやむをえない”
3月3日 19時38分

 19歳の男子予備校生が偽計業務妨害の疑いで逮捕されたことについて、元検事でインターネットを使った犯罪に詳しい落合洋司弁護士は「今回の事件は大学側の入試という業務を妨害したうえに、本来の業務ではない調査を行わせていることから、偽計業務妨害の罪にあたる」と指摘しました。

 また、少年を逮捕したことについては、「単純なカンニングと違って、インターネットを使って多くの人を巻き込んでおり、社会に与えた影響は大きい。投稿した手口や共犯者がいるかどうかなどの真相を明らかにするためには、逮捕はやむをえない」と述べました。

 さらに、今後の見通しについては、「少年なので、家庭裁判所で審判を受けることになる。重大な事件の場合、起訴されて通常の刑事裁判を受けることになるが、今回のケースはそれほど重大とまでは言えないのではないか」と話していました。」




2.カンニング行為については、業務妨害罪に当たるのかどうかが問題となっています。

(信用毀損及び業務妨害)
刑法第二百三十三条
 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(威力業務妨害)
刑法第二百三十四条
 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。


偽計業務妨害罪が成立ための要件は、<1>偽計を使用して、<2>その業務を、<3>妨害することが必要です。

業務とは、職業その他社会生活上の地位に基づき継続して行う事務または事業をいいます(大判大正10・10・24)。大学入試は、大学で学ぶ者を選抜する制度ですので、「業務」に当たることには異論がないでしょう。



(1) 多少検討を要するのは、<1>の要件です。

3 偽計の使用

1 意義
 偽計を用いるとは、人を欺罔し、または人の不知、錯誤を利用することをいう。詐欺罪における「人を欺く」より広い。直接被害者に向けられていることは必要ない。人の意思に直接働きかけるのではなく、物に向けて非公然になされる行為、たとえば、有線放送会社が放送送信に使用している電線を密かに切断して、顧客への送信を不能にすること(大阪高判昭和49・2・14判例時報752号111頁)、電話の応答信号の送出を妨害するマジックホンとうい機械を取り付けて、電話料金の課金装置の作動を不能にすること(最決昭和59・4・27刑集35巻6号2584頁)も偽計を用いたものとされている。」(佐久間ほか「刑法基本講義 総論・各論」(有斐閣、2009年)329頁)


カンニング[cunning]とは、「試験のとき、他人の答案や隠し持った本・メモなどを見るなどの不正行為をすること 」を言います(三省堂「大辞林 第二版」より)。この事件での予備校生は、インタ-ネットに問題を投稿し、不特定多数の者による回答を見たという行為をしたのですから、いわゆるカンニングに当たる行為です。

この予備校生が行ったカンニング行為は、インターネットという公の場所への投稿によるカンニングであったことから、「人の不知」を利用したとは言えない面はあるため、「偽計」に当たるのか若干疑問はあろます。しかし、少なくとも試験会場においては、試験監督に見つからないように行ったものですから、「人の不知、錯誤を利用」して行ったと判断できます。



(2) 問題になるのは、<3>の要件です。すなわち、カンニング行為が業務を「妨害」したと言えるのかです。この点については2つほど文献を引用しておきます。

5 妨害

 業務妨害罪の成立には、業務を妨害したことが必要である(未遂犯を処罰する規定はない)。判例は、危険犯であるとする(大判昭和11・5・7刑集15巻573頁、最判昭和28・1・30刑集7巻1号128頁)。しかし、名誉毀損罪や信用毀損罪における毀損と比べて、業務の妨害はより具体的に認定することができるから、侵害犯であるとする見解が有力である。業務に支障を生じさせることが必要である。

発展学習:外形的支障

 業務を妨害したというためには、業務に外形的混乱・支障を生じさせることが必要であり、替え玉受験やカンニングのように、個別的な業務における判断の誤りを生じさせ、業務内容を実質的に不適切なものにしたにすぎない場合は除外されるとする見解が有力である。このような見解によれば、3(→329頁)に挙げたマジックホンの事例は、料金の計算を誤らせたものにすぎず、業務妨害にあたらないとの理解が可能であろうが、最高裁(前掲最決昭和59・4・27)は、「課金装置の作動を不能にした」としており、この点に着目すれば、外形的な支障が生じたとおいうことも不可能ではないであろう。」(佐久間ほか「刑法基本講義 総論・各論」(有斐閣、2009年)330頁)


4 妨害の意義

 「妨害した」の意義について、判例は信用毀損罪との均衡から、妨害の危険を生ずれば足りるとして本罪を危険犯とする(大判昭和11・5・7刑集15巻573頁、同旨、団藤520頁、大塚159頁・160頁)。しかし、文言どおり侵害犯と解すべきであろう(平野188頁、大谷144頁、曽根80頁、中森70頁)。したがって、業務遂行に多少とも外形的混乱・支障を生じたことを必要とし、たとえば替え玉受験やカンニングのように、単に個別的な業務における判断の誤りを生ぜしめたにすぎない場合は除外される。業務の外形的妨害があればよく、その具体的な被害額等を明らかにする必要はない。」(西田典之「刑法各論(第4版)」(弘文堂、平成19年)121頁)


これらの文献にあるように、業務を妨害したというためには、業務に外形的混乱・支障を生じさせることが必要であるとして、単に個別的な業務における判断の誤りを生ぜしめたにすぎない「カンニング」行為は、「妨害」に当たらないとするのが、一般的と思われます。

確かに、偽計業務妨害罪について、妨害の危険を生ずれば足りるとして危険犯とする考えもあります。しかし、「危険を生ずれば足りる」という点を強調すればあらゆる行為が「妨害」に該当してしまうため、このように「危険性」を拡大して過度に処罰を広げることは、「謙抑性の原則」から許されません。

裁判例としても、承諾を得た他人の名前で私立大学の入試答案を作成する行為(東京高判平成5・4・5判例タイムズ828号275頁。最決平成6・11・29刑集48巻7号453頁参照)(いわゆる替え玉入試)は、入学選抜試験の答案は「事実証明に関する文書に当たる」として私文書偽造罪(159条1項)に該当するとしてはいるものの、偽計業務妨害罪で起訴さえしてないのです。

試験におけるカンニングは、昔からたびたびなされる行為ですから、試験ではカンニングがあることは当然に予測しているものです。ですから、、試験を実施する側はカンニング防止対策(試験監督による監視など)を行うことも試験業務の内容となっており、他方で、カンニングをした受験生の対応は、最高でも合格取り消しのみでそれ以上の制裁をしないのが一般的です。また、大学での学部の定期試験においては、建前上は、停学、受験していた試験は無効となり、それ以降の試験を受けることができない(受験資格喪失)にするのが一般的です。

ですから、カンニングをした者がいたとしても、それは通常の(予測された)業務の範囲内であり、カンニングが業務妨害にならないのです。単に個別的な業務における判断の誤りを生ぜしめたにすぎないからという説明も可能でしょうが、どう説明しようとも、法律上、「カンニング」行為は、「(業務)妨害」に当たらないとするのが、一般的なのです。

もっとも、大学の定期試験・入学試験での実情は、カンニングに対する対応は、厳重注意かあるいは「見逃し」が一般的でしょう。それは、大学では、学生や受験生は「お客様」だからです。このように、大学側が、カンニング防止対策を怠っている場合は、大学側が通常行うべき業務を身勝手に怠っただけなのですから、その結果、カンニングが横行したとしても、それは大学側の自己責任であって、カンニングを行った者が処罰されるのは不合理です。やはり通常の業務を前提として、カンニングの妨害該当性を判断するべきです。



(3) このように、学説・裁判例はもちろん、現実の運用としてもカンニング行為は(不合格などの内部的な制裁はあるとしても)法律上は不可罰とされてきました。

 イ:ところが、今回、カンニングは偽計業務妨害罪に該当するという記事が並んでいるのです。
 

「多くの法曹関係者は、予備校生の行為に偽計業務妨害罪を適用することは可能との見方で一致するが、刑事罰を適用すべきかどうかをめぐっては意見が分かれる。(中略)
 ある検察幹部は「隣の席の答案を見るようなカンニングは犯罪に当たらない」と指摘。予備校生の行為については問題を流出させた点に注目し、「抽象的な意味での公正な入試の実施だけではなく、流出の発覚が合格発表前の採点作業に支障を与えたのは明らかだ」として、偽計業務妨害罪が成立するとみる。」(東京新聞)

 「19歳の男子予備校生が偽計業務妨害の疑いで逮捕されたことについて、元検事でインターネットを使った犯罪に詳しい落合洋司弁護士は「今回の事件は大学側の入試という業務を妨害したうえに、本来の業務ではない調査を行わせていることから、偽計業務妨害の罪にあたる」と指摘しました。」(NHK)


すでに述べたようにカンニングについては、カンニング防止策を行うのが通常の業務であり、試験会場はもちろん、試験後も発覚すればそれへの対応をするのが通常の業務の範囲内です。ですから、「流出の発覚が合格発表前の採点作業に支障を与えた」というのは、通常の業務にすぎない行為を「妨害」と評価するものであって、妥当ではありません。

検察幹部は「予備校生の行為については問題を流出させた点に注目し、『抽象的な意味での公正な入試の実施』」を妨害した」とも述べているようです。しかし、これは過度に妨害への危険性して処罰するものであって、妥当ではありません。

また、ある弁護士は、「本来の業務ではない調査を行わせていることから、偽計業務『妨害』の罪にあたる」としています。しかし、すでに述べたようにカンニング防止策を行うことも通常の業務であるのですから、それを「本来の業務ではない調査」と間違った事実認識で判断している以上、妥当ではありません。

この検察幹部や落合洋司弁護士は、一体、学説・裁判例はもちろん、現実の運用をきちんと調べた上で発言しているのでしょうか。学説・裁判例はもちろん、現実の運用とも一致していないのに、過度の処罰を肯定することは極めて疑問です。


 ロ:処罰に値しないのが従来の一般的な評価である以上、起訴はあり得ないのが論理的な帰結です。ところが、ある学者は処罰を当然視するのです。
 

「ネット犯罪に詳しい園田寿・甲南大法科大学院教授(情報犯罪)は「隣席の答案をのぞき見るカンニング行為とは性質が違う。公平に学力を競う試験制度の根幹を揺るがすネット犯罪と見るべきだ」と悪質性を指摘。「投稿の手口など、京都府警は逮捕して事情を聴く必要があったのだろう」と述べた。
 ネット問題が専門の岡村久道弁護士(大阪弁護士会)は「少年は行方が分からなくなり、家族から捜索願も出ている。自殺という最悪の展開を想定すれば、逮捕はやむを得なかったのでは」と語った。
 こうした経緯から、起訴の可能性については疑問の声も出ている。岡村弁護士は「入試が混乱するのを少年がどこまで予測していたかが問われる」とした上で、「合格取り消しなど社会的制裁を受け、身にしみて懲りたと判断されれば、不起訴になる可能性もある」と見通しを語った。」(毎日新聞)

 「その場合、カンニングに刑事処分で対処する必要があるのか。園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法)は「大学の情報管理の隙を突いた犯罪。今後の入試試験の運営に大きな影響を及ぼすもので、起訴に相当する」と厳しい。
 一方、検察幹部は「予備校生には今後、合格取り消しなどの社会的制裁が考えられ、刑事罰まで科す必要はない」と話す。」(東京新聞)

 「今後の見通しについては、「少年なので、家庭裁判所で審判を受けることになる。重大な事件の場合、起訴されて通常の刑事裁判を受けることになるが、今回のケースはそれほど重大とまでは言えないのではないか」と話していました。」(NHK)

 「府警内部でも京大の対応に違和感を覚えるという声が出ている。監督の不備の可能性に目をつぶり、内部調査もしないまま警察に丸投げした形になったためだ。
 事件発覚から6日目の3日、初めて記者会見した松本紘学長は「監督はちゃんとやっている」と時に声を荒らげて強調。「(京大の監督の)範囲の外で起こるようなネット犯罪であれば、対策を取らなければいけない」とまで述べた。
 ところが、予備校生は府警の調べに、試験会場の自席に着き「机の下で携帯電話を操作した」と説明。会場の隅の席は試験監督から死角になるので何回もやったとも話し、一夜にして「監督は万全」との大学側主張に疑問符がついた。
 「試験監督の不手際を棚に上げ、すぐに警察に持ってくるのはどうか。自ら検証もせず、批判や追及を受けないよう逃げているだけのように思える」。府警幹部の一人はこうつぶやいた。」(毎日新聞 2011年3月5日 大阪朝刊)



こうして引用すると、現実の運用を知っている捜査機関や弁護士は、「予備校生には今後、合格取り消しなどの社会的制裁が考えられ、刑事罰まで科す必要はない」「試験監督の不手際を棚に上げ、すぐに警察に持ってくるのはどうか。自ら検証もせず、批判や追及を受けないよう逃げているだけ」「今回のケースはそれほど重大とまでは言えない」と判断して、不起訴処分となるとの見通しを述べています。

ところが、園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法)だけは、「大学の情報管理の隙を突いた犯罪。今後の入試試験の運営に大きな影響を及ぼすもので、起訴に相当する」と指摘しています。

しかし、今回の事件では、インターネットを利用した点で目新しいとはいえ、「受験した座席は試験監督から見えにくい場所で、机の下に隠し持っていた携帯電話を操作して問題を投稿した」のですから、<1>試験監督の死角を狙って行うという極めて古典的なカンニング方法であり、<2>股下・机の下にカンニング-ペーパー(カンニング用に隠し持つ紙片)を隠して答えを写したのと殆ど変わりがなく、これまた、古典的なカンニング方法にすぎないのです。

それなのに、園田教授は、「大学の情報管理の隙を突いた犯罪」などと大層な言い回しをしてしまうのです。dせうが、それは現実離れしたものであって、妥当ではありません。古典的なカンニング方法を摘発できないほどのお粗末な試験監督を行っている大学側こそが問題なのです。したがって、園田教授の見解は妥当ではありません。園田教授はもっと現実を知るべきでしょう。




3.今回の問題は、たかがカンニングであり、しかも古典的なカンニングの方法にすぎません。

(1) それなのに、全国紙(朝日、読売、毎日)は、重大犯罪のごとく大騒ぎしてしまいました。世論もそうした報道に影響され、熱狂させられた面があります。特に、朝日新聞は、連日大きく報道して国家の一大事のごとく散々煽って大問題にしておきながら、今になって平然と次のように言い放つのです。

 「予備校生逮捕―若者の失敗、どうみる 

 京都大などの入試問題が試験中にネットに投稿された問題で、仙台市の男子予備校生が逮捕された。偽計業務妨害容疑である。
 カンニングは、一緒に勉強してきた多くの仲間を裏切る行いだ。社会的影響も大きかった。ただ、日本ではカンニング行為そのものを罰する法律もない。まだ19歳。処分は慎重に判断すべきだろう
 予備校生は「携帯を股の間に隠して操作した」と話しているという。捕まってみれば、器用だが幼い手口にも思える。世間の大騒動との落差に、ネット社会の今が浮かびあがるようだ。(中略)
 大学が最初にこの問題をつかんだ段階で、「不心得者よ、名乗り出よ」と呼びかけるような手立てはなかったか。今思うと、ネットの進化についてゆけない大人社会が、過剰に反応した面はないだろうか
 冷静に考えよう。ネットや携帯のなかった昔から、若者はときにとんでもない失敗をしでかすものだから。」(朝日新聞平成23年3月5日付「社説」)


カンニングは犯罪でもないのですから、大騒ぎする必要はなく、最初から「冷静に考え」ればよかったのです。「今思うと、ネットの進化についてゆけない大人社会が、過剰に反応した面はないだろうか」などという部分は、自己批判のつもりなのでしょうが、だったら、素直に「騒ぎすぎました。謝罪します。」と紙面に謝罪文を掲載するべきでしょう。

戦前からの問題となっていることですが、日本のマスコミは、やたらと感情的すぎて、冷静に判断できないのです。戦前は、それが世論を熱狂させ、第2次世界大戦の開戦へつながり、当時の政府も破滅の道と分かっていながら戦争へと突き進んでしまったのです。

特に、マスコミはインターネットが絡むとすぐに大騒ぎすることも、こうした感情的な報道を助長してしまっています。そのため、園田教授も含めて、いまだに日本の世論が感情的な報道に左右され、気がふれたように「処罰、処罰」と喚き立ててしまうのです。


(2) 他方、被害者を装っている大学側も、すぐに警察に頼ってしまいました。警察の介入を避けようとする気概ともいえる「大学の自治」の精神(憲法23条)は一体どこへ行ってしまったのでしょうか。

3 大学の自治

 学問研究の自主性の要請は、とくに大学について、「大学の自治」を認めることになる。大学の自治の観念は、ヨーロッパ中世以来の伝統に由来し、大学における研究教育の自由を十分に保障するために、大学の内部行政に関しては大学の自主的な決定に任せ、大学内の問題に外部勢力が干渉することを排除しようとするものである。それは、学問の自由の保障の中に当然のコロラリーとして含まれており、いわゆる「制度的保障」の一つと言うこともできる。

 大学の自治の内容としてとくに重要なものは、学長・教授その他の研究者の人事の自治と、施設・学生の管理の自由の二つである。ほかに、近時、予算管理の自治(財政自治権)をも自治の内容として重視する説が有力である。(中略)

 (二) 施設・学生の管理の自由 

 大学の施設および学生の管理もまた、大学の自主的判断に基づいてなされなければならない。この点に関してとくに問題となるのが、大学の自治と警察権との関係である。

 警察権が大学内部の問題に関与する場合はさまざまである。まず、犯罪捜査のために大学構内に立ち入る場合がある。大学といえども治外法権の場ではないので、正規の令状に基づく捜査を大学が拒否できないこと、むしろ必要と事情に応じて積極的に協力することは、言うまでもない。しかし、捜査に名をかりて警備公安活動が行われるおそれなしとしないので、捜査は大学関係者の立ち会いの下で行われるべきである。次に、大学構内で予想外の不法行為が発生し、そのためにやむを得ず大学が警察力の援助を求める場合がある。この場合には、原則として、警察力を学内に出勤させるかどうかの判断は大学側の責任ある決断によるべきである。したがって、警察が独自の判断に基づいて大学内へ入構することは、大学の自治の保障の趣旨に反するとみるべきであろう。」(芦部信喜「憲法(第4版)」(岩波書店、2007年)162頁以下)

 
明治憲法下において、学問の自由が直接的に国家権力によって侵害された歴史を踏まえて、あえて諸外国と異なり、学問の自由が憲法の明文で規定され、大学の自治が憲法の保障の下に認められているのです。それなのに、なぜ、入学試験という学問研究の場に参加する者を選択する行為を、自ら調査・検証することなく、安易に警察に委ねてしまったのでしょうか。

こうした安易に捜査機関に協力を求める行為は、京都大学に限ったことではありません。例えば、早稲田大学で中国の江沢民国家主席の講演会が開催された際に、警備に当たった警察の要請に応えて大学は、参加希望学生が氏名・学籍番号・住所・電話番号を記入した名簿の写しを学生に無断で警察に提出したため、学生が大学に対しプライバシー侵害を理由に損害賠償を求めた事件がありました(江沢民講演会参加者名簿提出事件)。最高裁は、本件の個人情報につき、「本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されなくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる」と述べ、本件においては学生の承認を求めることも容易であったと認定してプライバシー侵害を認めています(最判平成15・9・12民集57巻8号973頁)(芦部信喜「憲法(第4版)」(岩波書店、2007年)120頁)。こうした事件も、大学側が「大学の自治」を遵守していれば、およそ名簿の写しを学生に無断で警察に提出することはなかったはずなのです。

このように、安易に捜査機関に委ねてしまう今回の大学側の態度をみると、大学側が自ら大学の自治を学問の自由を放棄したに等しく、過去の歴史的経緯を踏まえて制定された日本国権憲法の趣旨が損なわれてしまったのです。東大ポポロ事件(最大判昭和38・5・22刑集17巻4号370頁)において、大学構内において行っていた警備公安活動に対して、大学側が行った抵抗は、昔を懐かしむだけの遠い過去の出来事になってしまったようです。

いまや大学にとっては、学生は単に金を出してくれる顧客にすぎず、邪魔と思えばあっさり警察に情報を提供し介入を認めるだけの存在であって、大学の意義は、就職活動の便宜や就職前の「遊び場」でしかないことを自ら認めてしまったように思えるのです。

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【2011/03/07 19:09】 | 刑法
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  携帯電話を使って大学入試で不正行為をしたというニュースについて,もう少し書いておこう. 「どこへ行く日本,政治に無関心な国民は愚かな政治家に支配される」http://ameblo.jp/w...
2011/03/12(Sat) 18:23:38 |  高知に自然史博物館を
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